トップページへ戻る全作品リストへ戻るエッセイ作品リストへ戻る

「天満屋」強さの秘密

「天満屋」強さの秘密
著者 松尾和美
出版社 文芸社
出版年月 2008年8月
価格 \1,000
入手場所 市立図書館
書評掲載 2008年9月
★★☆☆☆

 シドニーオリンピックでの山口衛里、アテネオリンピックでの坂本直子、そして北京オリンピックでの中村友梨香と、3大会連続してオリンピック女子マラソンに選手を輩出している驚くべきチームがある。
 その名は「天満屋 女子陸上競技部」。岡山市に本社を置く百貨店チェーンだが、全国的には決して知名度の高い会社ではないだろう。
 しかし、世界的にもレベルの高い日本の女子マラソン界にあるなか、ピンクのユニフォームを身につけた選手たちが生き生きと先頭を走る姿は印象的で、同社の名を広く世に知らしめている。

 本書は、一地方企業でありながら、かくも優れた選手を輩出しつづけている天満屋というチームについて、同社で選手として活躍した著者自身の競技生活を振り返るようにして記している。
 著者は、同社に7年間在籍し、北海道、ベルリン、名古屋国際のそれぞれのマラソンで3大会連続優勝の快挙を成し遂げ、世界選手権にも出場した名ランナー。高校・短大時代には目立った成績を残すことができず、入社後も伸び悩み、引退レースとして臨んだ北海道マラソンで初優勝してことで、ビッグレースを次々と制覇していった経歴の持ち主だ。

 選手が伸び悩んでいる時期にも、コーチ陣のきめ細やかな指導によって力をつけてきた様子が本書から伝わってくるが、願わくはもっと深い突っ込みが欲しかった。
 マスコミや専門誌での登場頻度が少ない、武冨豊監督の競技哲学や、これまで歩んできた道のりなどを探っていれば、もっと内容に深みがでたのだろうが、そのようなコーチングの核となるような話題は一切なく、「朝練習のペースが速い」、「ミーティングが多い」など、著者自身が実業団に入って感じたことを主観的に書いているだけで、特段「強さの秘密」と呼べるほどの記述を見出すことはできない(なんとなく、武冨監督は相当の苦労人っぽい顔に見えるのだが・・・)。
 また、著者自身の練習日誌を1箇月分公開しているが、これが小学生の日記のような調子で、読んでいるこちらが赤面しそうになってしまう。例えば次のような具合だ。

「5月21日 今日は朝のうちにjogをしておいた。納会なのでしっかり飲んで次にむけていきたい。」
「5月22日 今日、帰ってきて、頭が痛い。明日から合宿なので忘れ物のないようにしていく。」
「5月23日〜25日 書いたつもりでいました。今日(26日)気づきました。申し訳ありません。」

 読者は、この練習日誌から一体どんな「強さ」を学べばよいのだろうか?

 少なくとも、全体的にも部分的にも天満屋の「強さの秘密」を読み取ることはできず、せいぜい著者自身が天満屋に入って感じたことを項目立てて書いてみただけで、タイトルと内容がかけ離れている気がする。
 これほどマラソンで安定した好成績を収め続けているチームでもあり、どんな特色があるのかと楽しみにしていただけに、期待はずれの印象はぬぐえない。

トップページへ戻る全作品リストへ戻るエッセイ作品リストへ戻る