世界中のどんな言葉よりも、あなたの一歩が勇気をくれた |
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いまや、30万人以上が応募し、3万人以上が出場する都市型市民マラソンの「東京マラソン」。 「東京」という大都会を開放して、様々な名所を巡りながらゴールを目指す快感は何物にも代え難く、全てのランナーにとっての憧れの舞台だ。 一方で、老若男女を問わず、人を引き付ける強力な磁力を持つ東京マラソンには、様々な決意を秘めて出場したランナーも少なくない。 本書の主人公たちは、いずれも平凡ではあるが起伏のある人生のなかで、もがき苦しんでいた。 本書は、東京マラソンに出場した、そんな「ちょっとワケアリ」なランナーたちの生きざまを描いたショートストーリー集。 妻からの離婚宣言に混乱する夫、摂食障害を克服した新米ママ、病床の母に力を与えたいと願う娘・・・。 夫婦、親子、友人、ボランティア。本書を読んでいると、主人公の周囲にいる人々は、それぞれがあたかもランナーの伴走者のように主人公を支えている様子が伝わってくる。 いや、もちろん本当の意味での盲人伴走者も本書には登場するのだが、個人競技であるからこそ、周囲のサポートがどれだけ力になるのかを教えてくれるような、心温まるショートストーリーだ。 「 そもそも、なぜ人は走るのだろうか?」 本書のはしがきに自問自答するように記されたわずかな1行こそ、これら10のストーリーに共通するテーマであり、著者が読者に送ろうとしているメッセージなのだろう。 ひとつひとつのストーリーは独立しているものの、舞台は一貫して「東京マラソン」であることに加えて、読後にほんのりと感じる温かさが10回も味わえるのは嬉しい。 それにしても、本書は実話をもとにしているのだろうか? それとも架空のストーリーなのだろうか? それによって読後感も大きく変わり、作品の印象をも左右する根幹のように思えるのだが、それが本文中に触れられておらず、帯に一言「真実のストーリー」という言葉が認められるだけ、というのは残念でならない。 また、真実と言うには話がうますぎる気がしないでもない。 だがそれでも、これはノンフィクションであってほしい。もしこれが架空のストーリーであれば、その瞬間に「感動」は「きれいごと」へ姿を変えてしまい、白々しさだけが残ってしまう。 そんな迷いを抱きつつ、ふとインターネットで本書に関して検索していると、動画共有サイトに著者がインタビューに答えているシーンがあった。 どうやら「真実のストーリー」という謳い文句は「真実」のようだが、願わくは書籍として出版する以上は、信頼に足る情報に基づいているということを記載してもらいたかった。 ※ 参考ウェブサイト:著者がインタビューで登場している動画共有サイトYouTube |