センス

　本書は「月刊バイシクルクラブ」なる専門誌に連載されたコラムを集めた短編集。
　タイトルから想像して、いったいどんな内容になっているのだろうと興味を惹かれて読んでいくと、「センス（＝感性）」と呼ぶにふさわしい美しいスポーツ観が、コラムという限られたスペースに凝縮されていて、その切り口の鮮やかさにうならされる。

　著者は新体操の元オリンピック選手で、現在も協会に籍を置き、ジュニアの指導者として活躍する一方で、フリーライターとしても、様々なスポーツ種目の取材を重ねている。
　内容は専門の新体操が中心になっているが、スポーツ全般にまつわる話題を丁寧に分析していて、どれも共感して思わずうなずいてしまうものばかり。
　印象深いテーマを挙げればキリがないのだが、『新体操の採点基準の明確化（P204）』では、採点が「跳躍力」や「柔軟性」といったパーツごとで行われるようになり、結果として全体としての「美しさ」が低下した、という一言には「なるほど」と思わされた。
　また、著者は無責任に評論するだけでなく、高度な技術を追い求めるゆえに基礎ができていないジュニア選手の現状に警鐘を鳴らし、協会理事という立場からルール改正にも積極的に関わってもいる（P212、他）。将来有望なジュニア選手の未来が委ねられているのは私たちなんだ、という堂々とした姿勢には、頼もしさすら感じてしまう。

　文章表現が豊かで、内容も珠玉のコラムばかりだが、唯一私の「感性」と異なるものがあるとすれば、プロ野球の工藤公康選手がダイエーから巨人に移籍する話題を取り上げたテーマ『プロらしく戦うためのお金の問題（P128）』だ。
　プロ選手が、評価としてのお金にこだわるのは理解できるが、経営の苦しい球団と、懐の温かな球団を「お金」というもの差しで一律に測り、「お金が高い」から「高い評価」とするのは短絡的過ぎはしないだろうか。
　また、単行本化するにあたり、雑誌掲載当時から時間が経っているテーマについては、追記して「その後」についても触れてくれれば、作品の完成度はもっと高かったと思う。（更に、揚げ足を取るようだが、ここに２回登場する「小出義雄」監督に２回とも誤った字を当てている。画数に優れ、「天昇院頭領」を誇る名伯楽に対して、いささかセンスが欠けていたのが残念。）