著者 |
谷川真理 |
出版社 |
ランナーズ |
出版年月 |
2008年1月 |
価格 |
\1,200 |
入手場所 |
bk1 |
書評掲載 |
2009年2月 |
評 |
★★☆☆☆ |
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OLからオリンピックランナーへ。 実業団のエリートランナーの多くが、大学卒業後すぐに企業チームに所属することが当然の流れの中にあって、競技とは無縁の会社員がエリートランナーと肩を並べて競うというのは、異例中の異例と言って良いだろう。 谷川は、そんな小説のようなシンデレラストーリーを駆け抜けたアスリートだ。 本書は、そんな彼女がなぜ走り始め、そしてオリンピックを目指すまでに至ったかを回想しながら、多くの市民ランナーにエールを送るエッセイとしてまとめてられている。
それにしても、中学・高校時代に陸上部で活動していたという彼女ではあるが、「不真面目な陸上部員 (P24)」と語っている通り、全国大会に出場できたわけでもなく、突出した才能があったわけではなさそうだ。 だが、皇居の周りを気持ちよさそうに走っているランナーに憧れ、24歳にして再び走りはじめてからは、学校時代の「やらされている」練習をしていた頃には感じなかった「走る楽しみ」に気付かされ、日々記録が伸びる喜びに魅せられてゆく。 もちろん、練習を続けていけば、記録が停滞してきたり、より苦しい練習を必要としたりと、相当なモチベーションがなければトップアスリートと呼ばれるまでにならないはずだが、谷川のモチベーションは「走る楽しみ」という内的なものだけではなく、外的な動機も大きかったようだ。 なかでも、谷川が苦しい練習を耐えることができた要因のひとつは、レースでの「賞品」だったという。優勝すれば海外レースに招待してもらえる。豪華な賞品が手に入る。そんな子供のような純粋な気持ちで、実業団ランナーに引けを取らない記録を出すまでに成長していってしまうのだから、彼女の精神的な芯の強さを垣間見ることができる。
順調に記録を伸ばしてゆく彼女はその後、真剣に競技に打ち込むために、30歳を前にして実業団に所属するや、翌年の東京国際女子マラソンで優勝。一躍国内トップクラスのランナーとして注目される。 目標としていたオリンピックこそ、度重なる故障が原因で出場を逃すのだが、谷川の真骨頂はその後、真のプロフェッショナルランナーとして活躍していることだ。 それは、自らが選手としてレースで走るということにとどまらず、個人事務所を開設し、ゲストランナーや講演会、CM出演を通じてランニングの普及に努めたり、チャリティーレースを主催したりと、バイタリティあふれる活動を次々に実行してゆく姿には驚かされる。 しかも、それほど多忙な中でも、2007年の第1回東京マラソンでは、まさかの準優勝。とても40代半ばとは思えない若々しさだ。
彼女が走ることを再開した当時は、女性ランナーはほとんどいなかったという。女性が走るというだけで珍しかった時代にあって、彼女の異色の経歴と、美しい走りが、女性ランナーが増加した要因ともなっているだろう。 そんな意味では、本書はランニングを始めてみようかと迷っている読者に、走るきっかけを与えてくれそうな内容だ。 だが、残念なのは値段の割にはとても内容が薄いこと。オンライン書店でなければ手を出さなかったかもしれない・・・。
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