駅伝やマラソンの選手選考というと、一般にどのような手順を思い浮かべるだろう?
たとえば駅伝であれば、通常は記録の良い順に選手を選考していき、選手枠から漏れた者は補欠登録されるかサポート役に回り、公式に走ることは許されない。
だが、なんらかの理由により能力がありながらも選手枠から外された者たちがチームを組んで走ったら、どのようなレースになるのだろうか?
そんなワクワクするような痛快な物語を描いたのが、スポーツコミックで数々の名作を送りだしてきた塀内夏子による本シリーズだ。
塀内夏子の名を聞いたとき、かつてサッカーJリーグで一躍スター選手に躍り出る若者を描いた「Jドリーム」を思い出した。
およそ20年前に週刊少年マガジンで連載され、実在するチームを登場させるリアリティある世界を紡ぎだし、当時のJリーグブームに乗っていたこともあり、毎週楽しみにしていたことを覚えている。
本シリーズは、才能あふれる高校生・如月晃太を中心に、駅伝を舞台にした「輝ける道」編と、高校を卒業した晃太がマラソンに挑戦する「ふたつの太陽」編に分かれた全5巻の短期連載シリーズ。
駅伝をテーマにした「輝ける道」編(第1巻〜3巻)では、将来を嘱望される才能がありながらも、ちょっと訳ありでチームから外されたメンバーで構成された混成チーム「かもめ」が、エリート集団にひと泡吹かせるストーリー。
箱根駅伝で故障による途中棄権を余儀なくされ、それがトラウマとなり実力を発揮できないでいる1区・北川克巳。
箱根駅伝出場を夢見ながら名門大学陸上部の門をくぐるも、マネージャーとして裏方を任され、生まれて初めて駅伝を走る2区・小野寺順。
実力がありながら、競技に対して厳しい姿勢を貫くゆえに周囲の誤解を招いていた不器用な3区・南利夫。
ダントツの走力がありながら、練習嫌いで監督の指示も受け付けない奔放な性格ゆえに公式試合出場停止中の4区・如月晃太。
そしてかつてマラソンでオリンピック代表の有力候補になりながらも、政治的な事情で外され、その後交通事故で選手生命を断たれたアンカー・室堂武司。
いずれも苦しい過去を乗り越えて、走る喜びを感じながら疾走する姿がとても爽快に描かれている。
一方、マラソンをテーマにした「ふたつの太陽」編(第4巻・5巻)では、高校を卒業した晃太が、前編の駅伝大会で同じ区間を走った10,000m学生チャンピオンの九州体育大・沢田祐一郎のもとをおしかけ、寝食をともにしながら合同練習を続け、福岡国際マラソンに挑んでいく。
両者とも初マラソンとはいえ、お互いを意識しながら最後まで譲らないデッドヒートは臨場感にあふれている。
なかでも、ゴール直前で見せた晃太のスパートに対し、「なんて力強い腕のふりだ! 肩胛骨がまるで生きているように・・・! まるで翼のような・・・ (第5巻・P147)」と漏らす沢田の一言は、迫力あるひとコマとセットになり、漫画の訴求力を生かした名シーンだ。
ちなみに沢田のモデルは鹿屋体育大出身の永田宏一郎とのこと(本書第3巻・著者紹介より)。
箱根駅伝に出場できなかった永田に直接取材をするなど、関東以外の学生ランナーの心情を理解しようと調べている姿勢に対しても好感が持てる。
ただ残念なのは、晃太の彼女ら中盤での重要人物が、終盤では忘れられたかのように消えてしまっており、登場人物を生かし切れていない点では物足りなさが残る。
|