著者 |
久保田競、
田中宏暁 |
出版社 |
角川SSC新書 |
出版年月 |
2011年9月 |
価格 |
\760(税別) |
入手場所 |
amazon.com |
書評掲載 |
2011年12月 |
評 |
★★★★☆ |
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伝統的に、有酸素運動は成人病予防に効果が大きいことは良く知られているが、脳に好ましい影響があることは、一般的にはあまり認知されていない。
たとえば、近年話題になった「脳トレ」と聞くと、一部のテレビゲームやクラシック音楽鑑賞などを思い浮かべがちになるが、著者らによるとそれらは迷信であり、ランニングの方がよほど脳の機能を向上させてくれるという事実を、本書のなかで丁寧に教えてくれる。
まず本書では、ランニングがいかに脳の機能を向上させ、記憶力を高めるのかについて、脳の部位の血流量などが変化するという科学的証拠に基づいて説明したうえで、さらには、走ることで分泌される物質(BDNFなど)がストレスによるダメージから脳を守ったり、運動後に副交感神経が活性化するために寝付きが良くなったりするなど、現代のビジネスパーソンが悩まされる苦しみからも救ってくれると説いている。加えて、高年者にとって心配な謎の病「アルツハイマー病」の予防効果にも触れ、中高年の方こそ、ランニングを始めてほしいと勧めている。
このあたりの紹介方法は、ふたりの著者自らも長年ランニングを楽しんでいる愛好家であることから、それらの科学的効果を前面に押し出すだけではなく、ランニングに対する愛情が溢れてくるような文面なのが微笑ましい。
だが、彼らにとっては日常生活の一部であっても、運動経験の少ない人が急にランニングを始めることには抵抗があるだろう。
そこで著者らが提唱しているのが、「スロージョギング」だ。
スロージョギングとは、読んで字のごとく、「ゆっくり走る (P16)」こと。あえてゆっくり走ることを勧める理由は、「体への負担が小さく 」「長く続けてもらいたい (P17)」というランナーへの愛情ゆえだ。
また、通常のランニングは踵から着地して地面をキックする走り方が一般的だが、これは脚力が小さい人には負担が大きく、故障を引き起こすとして、足の指の付け根あたりから着地する「フォアフット・ランニング」を推奨している。
これは着地方法が特異なだけでなく、歩幅は小さく、足を前に出さずに、アゴをやや上げて走る独特のフォームだ。
私も実際に試してみたところ、確かに脚への負担は格段に軽減されている気がしたが、チョコチョコとした走りでスピードは出せず、誤解を恐れずに白状すると、かなり「カッコ悪い」。
しかし、私のようにスピード感を感じて走りたいのではなく、とにかくランニングの世界へ足を踏み入れようとしているビギナーには、故障知らずの「フォアフット・ランニング」は確かにオススメできる。
特に、本書が対象にしているのは、比較的脚力が劣る中高年の方々であるから、脚に負担が少ない走り方はぜひ知っておくべきだろう。
それにしても、様々な文献を紹介しながら、脳に与えるランニングの効果が大きいことを教え、読者のモチベーションを高めてくれた上で、故障が少なく長く続けられる走り方まで指南してくれる。
読んでいるうちに走りだしたくなってくる読者は、決して私だけではないだろう。
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