著者 |
辺見じゅん |
出版社 |
文藝春秋 |
出版年月 |
1998年6月 |
価格 |
\2,000 |
入手場所 |
ブックオフ |
書評掲載 |
2004年7月 |
評 |
★★★★★ |
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かつて150名の選手を抱え、東京オリンピックには10名もの選手を送り込み、実業団選手権総合7連覇を成し遂げるなど、戦後の日本陸上界を牽引したリッカー陸上競技部。
その輝かしい歴史は、「スポーツによって日本を再興したい」と考えた、リッカーミシン創業社長の平木信二の壮大な夢から始まった。
倒産寸前の危機に陥った時期に創部された陸上部は、同社の再興と共に飛躍していく。 通常の仕事を終えてから、工場周辺を練習場所とし、選手集めにも奔走した草創期。たった一人の長距離ランナーでスタートを切ったチームではあったが、拡大路線を走る平木社長の号令の下で、会社を牽引するかのように陸上部は急成長を遂げていく。 抜群のスタートダッシュによって「暁の超特急」と称された吉岡隆徳を監督に招き、飯島秀雄や依田郁子らが東京オリンピック前後に活躍した全盛期には、本業でも飛ぶ鳥を落とす勢いの、日本を代表するメーカーへ成長していた。 しかし東京オリンピックという夢の舞台が閉幕すると、使命を終えたかのように去っていく選手たち。そしてまるで時を同じくするかのように、花形産業のミシンの時代が終わり、会社の勢いも失われていった。
サブタイトルは「平木信二と吉岡隆徳」とあるが、作品では平木信二の波乱万丈の生涯がメインに描かれている。 平木の「日本再建」の志に賛同し、自らの夢を継ぐ者を育てるべく、指導者として再スタートを切った吉岡にとって、依田郁子の東京オリンピックでの入賞は、平木と共有した夢を実現させたはずだったが、それまで順調だった歯車が狂い始めるのも、この頃だった。 自ら死を選んだ依田はもとより、吉岡や平木にとっても、目標を失ったかの晩年がとても重苦しく描かれている。 しかし、かつて日本再興を旗印に立ち上がった勇士たちの情熱と、どん底から這い上がり、夢を実現させた者たちの生き方には、ひたすら感服するあまりだ。 非常に長編ではあるが、時の首相に「もはや戦後ではない」と言わしめた高度経済成長期の日本と、オリンピック実現の夢に賭けた男たちのドラマを、泥臭くも鮮やかに描いている。
唯一気になったのは、あまりに登場人物が多いこと。ノンフィクションなので仕方ないのだろうが、とても覚えきれない。
※ 第9回(1998年度)「ミズノスポーツライター賞」受賞作品。
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