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育てて活かして勝つ
−常勝軍団はこうして作られた−

育てて活かして勝つ
著者 大八木弘明
出版社 コスミック出版
出版年月 2010年2月
価格 \1,238(税別)
入手場所 紀伊国屋書店
書評掲載 2010年3月
★★★★☆

 年々注目度が高まり、各大学の戦力が拮抗している大学駅伝のなかにあって、とりわけ箱根駅伝は区間数が多く、チームの総力が問われるだけに、毎年上位争いをすることは容易ではないはずだ。
 そのような激しい争いが繰り広げられ、「戦国駅伝」とも称される近年の箱根駅伝において、駒澤大学は際立って安定した成績を収めつづけている。
 だが、今でこそ「常勝軍団」と呼ばれるまでのチームとして評されてはいるものの、ひと昔前の駒大といえば、予選会を通るのがやっとの中堅校に過ぎなかった。
 駒大はなぜ、これほど短期間に「強さ」を身につけたのだろう?

 駒大陸上部の歴史は、1995年を大きな節目として説明すると分かりやすい。
 それは、後にマラソン日本最高記録を樹立する藤田敦史が入学したこともあるのだが、その藤田を、日本を代表する選手に育てた男もまた、同じ年にコーチとして就任したからに他ならない。
 そしていまや、この大八木を抜きにして、学生長距離界を語ることができないまでに大きな存在となっている。
 本書は、大八木が同校陸上部のコーチ就任後、現在までの活動を経年的に振り返っていて、駒大黄金時代を築くまでに至った過程が記されている。

 もちろん、「常勝軍団」とは言え、毎年箱根で優勝できるわけではないのだが、なぜ勝てたか、なぜ負けたのかについて、冷静に総括する一方で、選手の発掘や起用にあたっての信念、そして将来のマラソン強化に関する具体的な提言に至るまで、本書には名物監督の確固たる哲学が凝縮されている。
 しかもそれは、決して競技に限ったことではない。
 著者が本書の冒頭で、「いかなるトレーニングを積もうとも、人間的な成長がなくては選手としても満足いく結果が残せない(P14)」と語っているように、学生が大学卒業後も社会で活躍してほしいという親心が、本書の端々に感じられる。

 ところで、駒大駅伝の強みのひとつは、エース格の選手だけでなく、つなぎの選手が確実に区間上位で走り、穴がないことにある。
 その要因として、大八木が選手の特性をとても上手に活かしていることが挙げられるのだが、個々の性格や人間関係を驚くほど的確につかんでいる点は、チームスポーツとしての駅伝について考える上で注目しなければならない。
 そういえば、加藤康博(スポーツライター)による本書の解説においても、「大八木はとにかく研究熱心である。(中略)そして会う時にはいつも本を携え、「組織とは?」「教育とは?」といったテーマを考え続けている。(P235)」と、「知将」たる所以を指摘している。
 毎年世代交代を余儀なくされる学生スポーツにおいて、なぜ安定した成績を収められるのか。人材育成に欠かせない考え方を、本書から教えてもらった気がする。

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