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瀬古利彦の42.195km

瀬古利彦の42.195km
著者 石井信
出版社 講談社
出版年月 1983年11月
価格 \880
入手場所 渋谷・ビブリオスポーツ
書評掲載 2005年9月
★★★★☆

 現在もフリーライターとして数々の執筆を手がけている石井信氏が、関係者への綿密な取材を基に、マラソン界のスター・瀬古利彦選手を追った作品。

 エースで四番の野球少年が、走る方でも陸上部の上級生をいとも簡単に負かしてしまう、そんなわんぱく坊主だった少年時代から、輝かしい成績を残した高校時代、そして大学受験失敗に伴う留学時代の挫折。
 後に生涯の師となる中村清監督が早大監督に就任した、まさにその年に入学した瀬古選手は、すでに高校時代までに築いた自信が崩され、希望が見出せない状態だった。
 著者は、瀬古選手がそんな状態だったからこそ、中村監督の奇特なまでの陸上に賭ける熱意を感じ、「瀬古の心に中村監督の教えは染み込むように入っていった」と分析している。

 本書は、瀬古選手が東京で当時の世界最高に迫る2時間8分38秒(日本最高)で優勝し、福岡で4回目の優勝を飾る絶頂期に出版されただけあり、基本的には「瀬古の強さの秘密を探る」というスタンスが感じられる。
 そしてその探り方が、石井さんらしいとても哲学的な内容に富んでいる。
 例えば、マラソンランナーの多くが、少年期に劣等感を持ちながら鬱屈した時を過ごした者が多いことを挙げ、それとは対照的な少年時代を過ごした瀬古選手が、なぜあえて苦しい42.195kmに果敢に挑むのだろうと自問し、まるで禅問答のような調子で最終章をまとめている。
 それはあたかも、著者が「あとがき」で、中村監督への取材の過程で「私も何分の一かは中村門下生のようになってしまった」と告白した感情を、ペンに反映しているかのようだ。

 少年時代からの貴重な写真も数多く掲載されていて、かつて世界中のマラソンランナーから恐れられた、伝説のランナーの素顔を垣間見せてくれる一冊です。

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