著者 |
瀬古利彦 |
出版社 |
実業之日本社 |
出版年月 |
2012年2月 |
価格 |
\1,300(税別) |
入手場所 |
amazon.com |
書評掲載 |
2012年9月 |
評 |
★★★☆☆ |
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近年、ランニングを題材にした書籍・雑誌を目にする機会が非常に多くなった。
たしかにランニングは心身ともに健康を保つために、最も有効なスポーツであると思うが、やはりランニングを始めるにあたって最低限心がけておきたい点はいくつかある。
本書はマラソン界の重鎮である著者が、そんなランニング初心者向けに贈る一冊と言えるだろう。
1980年代のマラソン界を牽引し、いまも解説者として活躍する瀬古利彦は、言わずと知れた日本マラソン界を代表する第一人者だ。
著者が活躍していた当時は、ランニングの世界は一部のセミプロを除いて「見るスポーツ」の一つに過ぎなかったはずだ。
しかし、近年のランニングブームが目覚ましいことは言うまでもなく、多くの大都市マラソン大会が定員を大幅に超える希望者を集めている。これは私を含めて、長年陸上競技に携わってきた者にとっては驚くべき事実だろう。
「マラソン」という特殊なスポーツが広く知られ、世間の話題になることは、いまやごく自然な流れになっている。
その一方で、何の予備知識もなく「マラソン」の世界に足を踏み入れてしまうビギナーが多いこともまた事実だろう。
本書は、「マラソンランナーには何が求められるのか」、といった基本的な技術・精神的要素が非常に分かりやすく解説されている。
それだけではない。著者がマラソンを始めるに至った経緯から、偉大な指導者・中村清氏から陶酔を受けた貴重な経験なども交え、単調に見えるマラソンが、いかに孤独で忍耐強さを求められる奥深いスポーツであるのかを教えてくれる。
だが、長年に渡って著者の活躍を見てきた私が本書を読んで学ばされたことは、残念ながらそれほど多くはなかった。
著者がいかなる好成績を収め、多くの選手を育ててきたかという、大御所気取りのフレーズがクローズアップされ、「本当に伝えたいこと」は一体何だったのだろうか、という気にさせられてしまう。
プロフェッショナルとしての成績を求められる実業団選手と、仕事の傍らで趣味の一つとして楽しむ「マラソン」は、同じ土俵で論じることはナンセンスではないかと思うのだが、本書は一体どんな読者を対象にしているのかがあいまいになってしまい、中途半端な構成に感じたことが残念だ。
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