著者 |
瀬古利彦 |
出版社 |
ベースボール・
マガジン社 |
出版年月 |
2006年12月 |
価格 |
\1,600 |
入手場所 |
市立図書館 |
書評掲載 |
2009年9月 |
評 |
★★★★☆ |
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かつて、男子マラソン界は日本人選手が世界を席巻していた。 特に、1980年代には、宗兄弟、伊藤国光、中山竹通ら、現在でも日本トップクラスの歴代記録として名を連ねている一流選手が競った「黄金時代」と呼ばれている。 そんなハイレベルな時代のなかで、マラソン15戦10勝という驚異的な優勝確率を誇った超一流選手がいた。もちろん、本書の著者である瀬古利彦のことだ。
だが、選手時代は抜群の成績を誇っていた一方で、指導者に転身してからは、その指導力を疑問視されながら、数々の有力選手が大成することのないまま、ひっそりと彼のもとを離れていった。 指導者としては「三流」の烙印を押されていたかに見える著者が語るマラソン論なぞに、価値を見いだせるのか疑問に思っていた。たが、当初抱いていた印象に反して、とても理路整然と、そして体系立てられて著者の考えが整理されていて、分かりやすかった。
本書は、タイトルから推測すると、著者が考えるマラソン哲学に終始する堅い印象を受けがちだが、自伝的な読み物に絡ませて語られる上手な構成になっていて、読みやすい。 自伝的な部分については、これまで数々の瀬古関連の書籍を読み漁ってきた私にとっては、どこかで読んだことがあるエピソードや、見覚えのある写真ばかりで、新鮮さは感じなかった。 だが、著者が「企業秘密」とまで豪語し、本書の核心でもある「マラソンに対する考え方」は、基本的なトレーニングの本質を丁寧に説明してくれて、勉強させられる。 たとえば、ポイント練習ではない、ジョグひとつとっても、余裕があるからこそ様々なレースパターンを想定したペースで走る、あるいは歩くことでフォームを固める、など、長年陸上競技に携わっている者ならば、一度は必ず言われたことがあるような、「あたりまえのこと」の大切さが、具体的に挙げられている。
このように、たしかに本書には、マラソンを本格的に走ろうとする選手やコーチにとって、とても参考になることが多く書かれている。 だが、本書は果たしてどれほどの説得力を持って読者に受け入れられるだろう。 つまり、天の邪鬼な私には、こんな感想が頭をもたげてしまうのだ。「(これだけしっかりした考えを持っていながら、なぜ選手が育たなかったのだろう・・・)」と。 あまつさえ、指導者としての評価が決して高くない著者が、自ら筆を執ったという形をとる著作のなかで「究極のマラソン練習」などという名前の章を設けてしまうことは、強い違和感を覚えてしまう。
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