著者 |
織田淳太郎 |
出版社 |
文春ネスコ |
出版年月 |
2002年 |
価格 |
\1,500 |
入手場所 |
市立図書館 |
書評掲載 |
2004年8月 |
評 |
★★★★☆ |
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弱冠17歳でオリンピックに出場し、将来を嘱望された競歩界のシンデレラガール・板倉美紀を襲った悲劇と、その復活を追った作品。
正月の家族との再会を楽しみにしていた板倉を、練習中に突然襲った凄惨な交通事故。それは一瞬にして彼女の肉体と精神を引き裂き、絶望へ突き落とすようなものだった。 誰もが、助かる見込みは薄いと落胆するなかにあって、瀕死の状態にある彼女自身は「もう一度あるきたい」という強い意思を顕わにし、驚異的な回復を見せていった。
地道なリハビリに取り組み、復帰第1戦目を見事な優勝で飾るが、事故の直撃を受けた右脚の神経は損傷し、筋膜も喪失したままで、度重なる血行障害にも悩まされた。 右腕にはいまだステンレスの棒が埋めこまれ、右手の握力はほとんどないなかで、以前の滑らかな動きを取り戻すのは不可能に近かった。 それでも彼女は復活を夢見て、身体にメスを入れることをためらうことはなかった。 彼女をそこまで掻き立てるものとはなんなのだろう。 もしかしたら彼女にとって“歩くこと”とは、口下手な彼女が、自分を表現できる唯一の手段だったのかもしれない。
事故をめぐっては、信頼していた監督に裏切られた形となり、目に見える外傷以外にも失ったものは計り知れなかったはずだ。 それでも彼女は歩くことを止めなかった。 そこに彼女のどんな思いがあったかどうかについて、著者は彼女の内面をえぐり出そうとはしていない。 著者の主観や憶測を薄め、地道な取材を通じ、時間をかけて事実をありのままに伝えようとする姿勢が見て取れ、好感が持てる。
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