著者 |
渡辺康幸 |
出版社 |
日本能率協会
マネジメントセンター |
出版年月 |
2008年11月 |
価格 |
\1,500 |
入手場所 |
bk1 |
書評掲載 |
2008年12月 |
評 |
★★★☆☆ |
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高校時代からたぐいまれなる才能が注目され、いずれはマラソン界の次代を担うだろうと期待され続けたスーパースター・渡辺康幸。 10000mで28分35秒の超高校記録、大学では同種目で27分48秒の学生記録と、同世代のカテゴリーでは別格の記録を次々に樹立していた彼のパフォーマンスの数々は、同じ競技に打ち込んでいた若かりし頃の私にとっても、「スーパースター」そのものだった。 将来を嘱望され続けてきた彼が、アキレス腱の故障を理由に現役から退いたのが、大学卒業後7年目の29歳。マラソンで大成する年代が30歳台前半と言われているなかでの、あまりに早すぎる決断に、大きく肩を落としたことをよく覚えている。
現役引退後は指導者に転身。しかも彼が選んだチームは、伝統ある早稲田大学競走部。 指導者としての経験がなく、年齢も浅いだけに、その就任に疑問を投げかける声もあったようだが、渡辺が監督に就いて以降のチームが、着実に強くなっていることは事実だ。 本書は、自身が選手として成長してきた過程を振り返りながら、「監督・渡辺康幸」の指導哲学を綴った自伝的エッセイで、特に今年の箱根駅伝で、予想外の準優勝という好結果を収めることができた原因について、大きく紙面を割いていて、個々の選手の個性を生かした指導の重要性を強く説いている。
渡辺の指導哲学は明確だ。 それは、タイトルにもあるように、自ら考え、自ら育つ力を養うため、過度な管理はせずに、学生の自主性を重んじていることだ。 監督就任当初は、周囲の過剰な期待を背負い、選手に過度な管理を強いた末に結果が伴わずに苦悩した。 才能があったゆえに、深く考えなくても強くなっていた。 指導者として無くてはならない経験を、選手時代に積んでこなかった点については、一流選手が一流指導者になることができない原因として指摘されることが多いが、渡辺自身もこの点については認めていて、「僕は、ただ走るだけだった。なぜ自分が成長しているのかも考えず。 (中略)自分の成長を客観視できていなかったのだ。 (P35)」と、指導者としての欠陥を素直に吐露している。 しかしその一方で、常に世界を見据えて練習し、国際大会でも経験豊富な点が強みであることを強調し、それこそが僕にしか選手に伝えることができないことだと自覚している。 そしてたどりついた答えが、選手自らが考えることを尊重し、そして自身は選手の相談相手として、自ら経験してきた挫折や練習方法をアドバイスすることだった。
指導者としては駆け出しではあるが、それだけに選手の気持ちが理解でき、競技生活以外の面でもよき相談相手となれるのだろう。 そういえば、本書の中でも「僕は練習嫌いだった 」とか、高校時代には「チャンスを見つけては練習をサボった。 (P198)」などと公言している。 一世代前の指導者と比べると、このようなことを自著に述べていることには隔世の感覚を覚えてしまうのだが、もしかしたらこの軽さこそが、いまどきの「ゆとり世代」をその気にさせるマジックなのかもしれない。 他にも本書のなかでは、チームの現状や、来年の箱根駅伝に挑む注目選手らも写真入りで紹介されているので、レース本番での戦い方が今から楽しみになる。
そんな意味ではとても旬の内容なのだが、逆にいえば、本書の魅力を味わう時期は限定されていて、後世に残る書籍ではなさそうだ。読むなら今しかない!
※ 参考書籍:2011年11月発行・渡辺康幸著『「総合力」で勝つチーム術』
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