著者 |
増田晶文 |
出版社 |
小学館 |
出版年月 |
2002年5月 |
価格 |
\1,400 |
入手場所 |
平安堂書店 |
書評掲載 |
2002年5月 |
評 |
★★★★★ |
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瀬古・中山・森下に続く、次代のエースとして期待された、マラソンランナー・早田俊幸の苦悩の10年間を追ったノンフィクション。
男子長距離界が不振の中にあって、現役ランナーで、しかも満足いく結果を残せていない選手を取り上げるのは珍しいことだが、こんな現在進行形の作品も新鮮でおもしろい。
トラックや駅伝で結果を残しても、マラソンでは失敗を繰り返し、いくつかの実業団を渡り歩く姿には、多くの非難が浴びせられた。
彼はどんな思いで決断し、何を求めていたのだろう。
「スピード」にこだわる彼の苦悩や、彼を巡る多くの関係者の証言も興味深く、マラソンランナー・早田選手を様々な角度から描いている。
ちなみに、絵や写真は一切無く、登場人物や当時のレースを思い出しながら読んでいかなければならず、これがまたおもしろい。「そういえばあの年の福岡はそうだったなー」などと。
そんな意味では、大衆向けの本ではなく、かなり読者層は限定されている(難しい漢字も多い)。
決してベストセラーを狙えるような内容ではないが、それでも出版にGOサインを出した出版社の姿勢と、読者に媚びない著者の情熱を高く評価したい(装丁もシンプルですばらしい)。 追伸 その後早田選手は2003年6月末日付けで現役を退く旨の報道がされ、改めてこの本を読んでみたところ、彼の哀愁を感じてしまい、初めて読んだときより感情移入してしまった。
振り返ってみれば、不器用な生き方だったかもしれないけれど、自分が納得するためのアクションを抑えることを辞さなかったことには、彼のポリシーすら感じ、そんな彼に著者は惚れこんでしまったのかもしれない。
※ 原題「フィリピデスの懊悩」で第7回(2000年)「小学館ノンフィクション大賞 優秀作」受賞 |