著者 |
ゴーマン美智子 |
出版社 |
文藝春秋 |
出版年月 |
1980年5月 |
価格 |
\980 |
入手場所 |
ブックオフ |
書評掲載 |
2005年7月 |
評 |
★★★★☆ |
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いまや華やかで美しい女性のスポーツとして隆盛にある女子マラソンも、かつては正式な選手としてレースに出場することすら許されない時代があった。
オリンピックは言うまでもなく、女性が参加可能なマラソン大会すら限られていた時代に、「女子マラソン世界最高記録の変遷」として残る偉大な記録のなかに、燦然と輝くひとりの日系人選手の名を見つけることができる。 「2時間46分36秒 Michiko Gorman(USA)
1973年12月2日」
戦前の満州周辺で生を受けた著者(ミチコ)は、終戦を日本で迎え、アメリカ統治下で復興に力強く生きぬこうとする時代に育った。 そして「日本復興の証」とも言える東京五輪が行われた年に、憧れであった「自由の国」への単身渡米を決意。 プロローグは24歳で自らの夢であったアメリカへ旅立つ経緯から始まり、異文化に触れた衝撃や、不慣れなコミュニケーションに戸惑う様子が赤裸々に綴られている。
その後アメリカ人と結婚し、米国籍を得たミセス・ミチコは「健康のために」と夫からムリやり薦められて始めたスポーツクラブでのランニングで、どんどんその魅力に取り憑かれていく。 小柄で華奢なミチコが、何事もマジメでコツコツ取り組む日本人気質を自覚しながら、それでいて「(あんな人たちに負けるもんか)」とライバル心を秘めていた頃を振り返っている様子がとても微笑ましい。 そしてなんと初マラソンで上述のワールドレコードを樹立。伝統のボストンマラソンにも優勝し、その後は日本の女子マラソン普及のためにも尽力するなど、日本女子マラソンのパイオニアであると言っても過言ではないだろう。
女子マラソン草創期の貴重なエピソードを知ることができるだけではなく、文章がとても丁寧で美しい日本語を用いていて感銘を受ける。 蛇足ながら、この数十年で失ってしまった美しい日本文化や言葉の大切さを、異国の地から教えてもらったかのようだ。
ちなみに、「なぜ『ミチコ』なのに『ミキ』なのか」というと、単純に「呼びにくい」とニックネームにされてしまった、とのことです(本書より)。
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