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福士加代子

福士加代子
著者
出版社 いろは出版
出版年月 2022年3月
価格 1,500円
入手場所 楽天ブックス
書評掲載 2022年2月
★★★★☆

 私が陸上競技という底なしの魅力に憑かれ四半世紀が経つが、いまでも脳裏に焼き付いているレースがいくつかある。
 とりわけ、1996年の日本選手権では、男子10,000mで花田勝彦、渡辺康幸、平塚潤、高岡寿成によるラスト1周での激しいデッドヒートが繰り広げられ、同じ女子10,000mでは、鈴木博美、川上優子、千葉真子によるハイレベルな駆け引きに胸を突かれた。

 学生時代に胸を躍らせて観戦していたそんな懐かしい映像が、東京オリンピックを前に編集放送され、思わずテレビにくぎ付けになってしまった(日本陸上競技選手権伝説 頂上決戦 秘蔵映像スペシャル(2020/9/27 BS1))。
 一方、同番組では女子長距離界の伝説的レースとして、2008年・日本選手権10,000mが回想されていたことにも、大いに興味を惹かれてしまった。
 それは、北京オリンピック代表選考会を兼ね、渋井陽子、赤羽有紀子、そして福士加代子の3選手が火花を散らしたレースだった。

 いまでは、渋井も赤羽も第一線から退いて久しいのだが、福士に至っては、東京オリンピックマラソン代表選考会にも果敢に挑み、今年(2022年)ようやく競技生活に幕を閉じたことは、記憶に新しい。
 高卒でワコールに入社して以降、20年超に渡り日本トップクラスで活躍し、彼女の明るいキャラクターは多くのファンを魅了してきた。
 陸上競技専門誌が彼女の引退特集記事を掲載したのがつい先日(月刊陸上競技 2022年3月号)であったこともあり、彼女が生きた歴史をもっと知りたい思いに駆られた矢先に、本書が刊行されることを知った。

 シンプルなタイトルは、彼女のストレートな生き方を象徴しているのだろう。
 レース後に見せる彼女の姿は天真爛漫に映るものの、日本選手権10,000mで連勝していた時期ですら、こんなに苦しいのに、こんなに練習しているのに、こんなタイムか(P130)と自問し、苦しんでいたことを知らされ、つくづく長距離走は甘くないという現実を突きつけられた。
 そんな厳しい世界を生き、それでも達観したかのように明るくふるまう彼女の競技人生について、本書は両親、指導者、そしてライバルだった渋井や、後輩の新谷仁美、一山麻緒、そして夫(え、いつ結婚してたの!?)のコメントも紹介しながら、福士加代子という稀代のアスリートをすっぽんぽんにしてくれる。
 それはまるで、彼女と同じ時代を生きてきた世代が不惑を迎え、そうは言ってもいろいろ悩みっぱなしの我々を、勇気づけてくれるかのようだ。

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