著者 |
山内武 |
出版社 |
出版芸術社 |
出版年月 |
2002年10月 |
価格 |
\1,500 |
入手場所 |
平安堂書店 |
書評掲載 |
2002年11月 |
評 |
★★★☆☆ |
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著者は、高橋尚子選手を大学の4年間、監督として指導に携わり、現在も学生を指導しつづけている、大阪学院大学の現役教官。 決して名門校とは言えないながらも、高校時代の高橋選手に注目し、熱心な勧誘活動によって同校への入学に至る話題から始まり、彼女のスピードを生かしつつ、徐々に距離を伸ばしていく無理のないトレーニング方法によって大成していく様子が、指導者という身近な存在の視点から冷静に描かれている。
「大学時代は無名だった」と過小評価されがちな彼女だが、インカレで表彰台に上るなどの実績も残している。 「無名」とされる理由は、得意種目が中距離であり、駅伝やロードでは目立った成績が残っていないためだろうか。 しかし、実業団に入ってからは、マラソンで次々と記録を塗り替え、更に勝負の駆け引きにおいても、恐るべきスピードの切り替えによって、他を寄せ付けない強さも持っている。やはりこれには大学時代に培った中距離練習が背景にあるのではないかと思う。 そしてなにより、学生時代に練習を詰め込みすぎずに、あくまで本人の意志に任せて練習をさせたことが、高橋選手をここまで大成させた理由の一つだろう。 あえて結果を求めすぎず、将来を見据えた練習内容、そして目標となる試合の後には思う存分リフレッシュさせてあげる。そうでなければ、苦しい練習なんて耐えられないというのが、著者の哲学でもある。 “育てる”ことを第一に考えている、指導者としての著者の広い心が、文章の中からにじみ出てくるような一冊です。 ちなみに、思い切ったリフレッシュが必要というのは、小出監督も常に口にしている。こんなすばらしい指導者たちに恵まれたからこそ、30歳を迎えても尚、記録に挑戦できる息の長い選手生活が送れるのだろう。
しかし巻末のランニングフォーム分析はやや不満。厳しい言い方をすればこんなのいらない。 高橋選手と、彼女と異なるフォームを比べ、高橋選手の方が速いからこっちの方がいいフォーム、と捉えられかねない記述が気になる。 スポーツ科学的な分析は、この本の趣旨からして、なんだか中途半端な構成になってしまっているように感じた。
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