著者 |
岡田正裕 |
出版社 |
ファーストプレス |
出版年月 |
2006年10月 |
価格 |
\1,400(税別) |
入手場所 |
amazon |
書評掲載 |
2013年2月 |
評 |
★★★☆☆ |
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82回を数える「箱根駅伝」の長い歴史において、歴代優勝校は当時わずかに14校。
亜細亜大学の名は、紛れもなくその輝かしい歴史のなかに誇らしく刻まれている。
「山の神・今井正人」を擁する順天堂、5連覇を狙う駒澤、タレント揃いの東海など6強の優勝争いになると見られていた、第82会大会(2006年)。
だがこれら優勝候補に軒並み大きなブレーキが発生するなかで、無名選手ばかりの亜細亜大学は終始堅実にタスキをつないでいた。
なかでも、9区・山下拓郎の大逆転シーンと、10区・岡田直寛の重圧を感じさせない伸び伸びとした走りは、今でも脳裏に焼き付いている。
そんな「雑草軍団」を率いたのは、同校OBであり、ニコニコドー監督時代にあの松野明美を育てたことで知られる岡田正裕だ。
本書は著者が歩んできた道のりを振り返りながら、自身の競技哲学や指導方針を記した一冊で、学生に対する情熱がひしひしと伝わってくる。
特に本書からは、まずは生活面を正しい方向に導いていこうとする姿勢が非常に強く感じられた。
今の学生の精神面は未熟であるという認識から、近隣の住民に対するあいさつ、合宿所での靴の揃え方や髪の色など、一見すると競技とは無関係なことでも、その大切さを丁寧に説いていったという。
著者自身がセールスマン時代に培った、周囲に対する感謝の心を伝えながら、学生が社会に出たときに立派に活躍してほしいという親心がにじみ出ているようだ。
だが今でこそ学生らから信頼の厚い著者ではあるが、赴任当時は順風満帆ではなく、前任者との引き継ぎがスムーズに行われなかったり、選手との間のわだかまりを解消することに時間を要したりしたという(P84、P113)。
そんな苦労を乗り越え、トレーニング方法を大胆に変えながら、低迷していたチームを蘇らせることに成功した。
著者が赴任する前後は予選会すら突破できない状態が続いていたにもかかわらず、就任5年目で3位入賞、そして7年目にして母校に初の栄冠をもたらした。
これまでは松野明美を育てたことのみがクローズアップされていて、「一発屋」の印象があった著者だが、本書を読んでいて、なぜ雑草軍団がハイレベルな箱根駅伝を制することができたのかを垣間見ることができた気がする。
その一方で、著者が監督を退いた後の同校の不安定ぶりは著しい。
優勝の4年後には最下位に転落。その後は3年連続で予選会を通過できず、信じられない凋落ぶりをさらけだしている。
大会の人気は過熱し、競争が激化していることは周知の上だが、指導者が頻繁に代わることで、その度に大学のカラーが薄まってしまっている気がする。
歴史の長い大会だからこそ、名門校には信念を持った名物監督にどっしりと構えてもらい、その大学「らしい」戦術を見てみたい。
そんな意味では、著者が去った後の亜細亜大学は、個性がすっぽり抜けてしまったようで寂しい思いだ。
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