著者 |
中島祥和 |
出版社 |
報知新聞社 |
出版年月 |
1994年4月 |
価格 |
\1,500 |
入手場所 |
京王百貨店・新宿店
(古本大市・
佐藤藝古堂の出店) |
書評掲載 |
2009年5月 |
評 |
★★★☆☆ |
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オリンピックや世界選手権といった国際大会において、陸上競技のマラソン種目、とりわけ女子マラソンは常にメダルの期待がかかる、日本の「お家芸」であるが、両大会を通じて、女性種目としては初めて金メダルを獲得したのが、本書の主人公である浅利純子だ。 本書は、一躍「時の人」となった1993年の世界選手権後に報知新聞に連載された記事をまとめた内容で、彼女の生い立ちから素顔に至るまでを丁寧に伝えている。このあたりの取材の細やかさは、さすがスポーツ新聞ならではだ。
ところで、本書を読んでいて気付かされるのが、なぜかマラソン選手に共通するサクセスストーリーだ。 1992年と1996年のオリンピックで2大会連続のメダルを獲得した有森裕子や、2000年に金メダルを獲得した高橋尚子は、決して実業団入社前は決して将来を期待されてはいなかった。 浅利純子もまた、高校卒業後はどこの企業からもスカウトの声すらかからない無名選手だったという。 あえて、浅利だけに言及できる彼女の特徴を挙げるとすれば、高校時代は練習嫌いだったということだろうか。 ちなみに、著者が本書のタイトルに冠した「アヒル」とは、浅利の特徴的な腕振りから名付けられたニックネームだそうだが、高校時代には「アヒル」どころではなく、「オバケ」とまで呼ばれていたそうだ。 「オバケ」の由縁は、幽霊のような腕振り・・・というわけではなく、「練習嫌いで消え去るのが得意 (P85)」だったからだとか。 いやはや、後に世界の頂点に立つアスリートが、高校時代は自他共に認める練習嫌いだったとは驚きだ。
しかし、そんな彼女の一流たる所以は、一度目標を定めたらそれに向かってまい進し、レースを通じてどんどん成長してゆく姿だろう。 なかでも、浅利純子といえば大阪国際女子マラソンでの数々の伝説的なシーンが思い出される。 バルセロナオリンピック選考会を兼ねた1992年大会では、ペースメーカー役のはずだった後輩の小鴨由水に敗れ、オリンピック出場を絶たれたり、翌年、翌々年と安部友恵(旭化成)との壮絶なトラック勝負で悲喜こもごもを味わい、観衆を大いに沸かせたりと、彼女のレースを見ているだけで、とても波乱万丈に満ちた人生模様を見せてくれていた気がする。 いや、それだけではない。 彼女のマラソンレースは、マラソンという退屈な競技を、一瞬たりとも目を離すことができないスリリングな競技に変えてしまったのだ。 そんな意味では、彼女は日本での女子マラソン人気に火をつけた立役者と言っても過言ではないかもしれない。
本書は、世界選手権優勝後に出版された内容なので、彼女の競技人生の前半部分しか取り上げていない。従って、彼女の長いマラソン経歴を知る者にとっては、若干物足りない点はあるが、まさに日本のマラソン史に残る名ランナーの絶頂期を描いた作品として、後世に残してしておきたい作品だ。
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